incoscienza
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保健室に続く廊下を二人の男女が歩いている。
少女は彼女の所持品であろう1本の剣を腰に装備し、残りの2本の剣をその細い腕で抱えていた。
一方青年は、自分と同じ背丈の男を背負っていた。
「たっく、何で俺がこんなこと・・・・。」
「文句言ってないで、早く運んでよね。」
「・・怪我もねぇんだし、自室に寝かせとけばいいじゃねぇか。」
「あのね、怪我してないんじゃなくて、私が治療したのッ。
それに怪我は魔法で治せるけど、体内の事は回復魔法じゃ、どうしようもないでしょうが。」
「へいへい。わかりましたよ。」
「サイファーが敬語使うと気持ち悪いね。」
「てめぇ、ぶっとばすぞ・・?」
――ガンッ
鈍い音と同時に辺りに火花が散った気がした。(談)
「痛ッ!!何すんのよッ。」
はサイファーを睨んだ。
その瞳には涙が溜まっている。
「・・・(これは、これでそそるな。)」
女のと男であるサイファー身長差はかなりあり、当然のが低いわけで、彼女がサイファーを見上げる形になる。
上目使いでしかも目に涙と言うオプション付き、健全な青年のサイファーはそれ相応の感情を抱いく。
無言でを見ているサイファーには居心地の悪さを感じた。
「・・・何?」
「別に。」
サイファーは彼特有の笑みを浮かべながら、再度足を進めた。
そんな彼の背中に疑いと嫌悪の視線を送りながら、もまた足を進めた。
† † †
――――ウィーンッ
「失礼しまーす、怪我人2名様追加です。」
「ファミレスかよ。」
やる気のない声とその声の主に突っ込みを入れる声。
バラムガーデンの保健医―カドワキは聞き覚えのある声に、机上での作業を中止し扉の方へ振り返った。
その表情は呆れを隠しきれないようである。
「はぁ、またアンタ達かい・・?今度はどうしたんだい。」
学園内の問題児サイファーと何かと目立つスコール、そして兄同様の実力を持つ、
3人が集まれば必ずと言っていい程、何か問題が起こる。大抵の原因はサイファーにあるが。
そんな3人は保健室の常連客だった。
「今回の患者さんは、お兄ちゃんとサイファーです。」
「おや、スコールが見当たらないよ。」
患者の一人のスコールが見当たらない。
カドワキは2人の近くにいるであろうスコールを探す。
「先生、ここです、ここ。」
そう言っての指す方向に視線を送ると、サイファーがいた。
「いや、サイファーじゃなくて・・」
「お兄ちゃんですよね、ここにいますって。」
は尚サイファーを指さす。
一瞬、スコールとサイファーが一体化してしまったのではないかと有り得ない事を想像してしまったカドワキだが、
が頑なに彼を指す理由がわかった。
よく見たら、サイファーが何かを背負っている。
「す、スコール!?」
サイファーが背負っていた何か・・・それは紛れもなくスコール本人であった。
保健医であるカドワキは、幾度となくこのような患者を見たことあるが、先程述べたようにあの問題児3人が集まったのだ、
カドワキの過剰な反応も頷ける。
「おい、俺はもう戻るからな。」
スコールをベットに運び込んだ後、彼の寝ているベットの横にある椅子に座っているに声をかけた。
は、驚いて振り返ってサイファーを見上げた。
「え、サイファーも一応先生に診てもらった方がいいよッ。」
「俺はいい・・・。お前にケアル掛けてもらったしな。それよりお前の方が見てもらった方がいいんじゃないか?」
「え・・。」
まさかサイファーが自分以外のことを心配するなんて・・・。
―――ゴンッ
そんなことを考えていたの頭に本日二度目の強い衝撃が走った。
「ッッ!!何すんのよッ!!」
思わず立ち上がり、涙目でサイファーを見上げた。
その衝動で、椅子が倒れたが気にしている場合ではない。
「お前なぁ、いい加減学習しろよな。」
「え?」
「声に出てたぞ。」
サイファーはを見下すように鼻で笑った。
「うそっ。」
「以後、気を付けるんだな。」
「う〜。」
落ち込んでるにサイファーは背を向け扉の方に向かってく。
が、ふと彼は思い出したように振り返って、
「あ、後な。」
「まだ何かあるの?」
正直、もうサイファーの嫌味は聞きたくなかったのだが、
自分の事がどう思われてるのか気になるのが人間の心理と言うものではないか。
も例外ではなく、大人しくサイファーが口を開くのを待った。
「半泣き状態で、人の顔見上げんな。特に男にはな。」
「は?」
何言っているのコイツ、と言うような顔でサイファーを見つめる。
「(無自覚なのか・・。スコールも苦労してんだな。)分からなけりゃいい。じゃあな。腕、カドワキに診てもらえよ。」
そう言い残して、サイファーは今度こそ保健室を去ってしまった。
残されたは、少々腑に落ちないような表情をしながらも倒れた椅子を元に戻し、そこに掛けた。
暖かな日差しが窓に降り注ぐ。
眩しすぎないその光は、を眠りの世界に誘うにはもってこいである。
「(お礼言いそびれちゃったな。)」
は襲いかかる睡魔と格闘しながらそんなことを考えていた。
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