dispetto
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何とか試験を終わらせたスコール一行は船艇に揺られながらバラムに到着するのを待っていた。
それから数分後、船艇は彼らを港へと届けた。
が船を降りると、数m先に二つの人影が見えた――風神と雷神だ。
2人は目的の人物を見つけると、すぐさま我先にとその人へと駆け寄る。
「サイファー!どうだった?」雷神が興味津々に尋ねた。
「どいつもこいつも俺の足を引っ張りやがる。全く、班長ってのは大変だったぜ。」
サイファーが深いため息を吐く。
其の態度に苛立ちを覚えたは、異議を唱えようとサイファーに近付く。
しかし、途中で何かを思い出したように振り返った。
その視線の先には、ついさっきまで共に戦場に立っていたリヒトとシンの姿が。
既にの顔には怒りは無かった。
「2人ともお疲れ様!リヒト、さっきはありがとね。」
「どういたしまして。よかったね、大事に至らなくて。」
「ホントだよなー。リヒトがあの場で攻撃してなかったら、お前ぜってーあの蜘蛛に突っ込んでっただろ!」
「な、突っ込まないし!」
「ホントかよ?ま、何にせよよかったな・・・大好きなお兄さんが無事で!」口を三日月形にしながらシンが言った。
するとの顔が一瞬にして赤く染まる。
「〜〜〜ッ」言い返そうとしても、声が出ない。
そんなにリヒトが助け舟を出してくれた。
「シン、あんまり女の子をからかうなよ。いくらが好きだからって、やり過ぎると嫌われるぞ?」
リヒトの言葉に今度はシンも顔を染めた。
「なッ!?何言ってやがる!俺は関係ねぇ!」「・・・・。」
は羞恥心は最高潮で、最早思考が停止していた。
そんな2人の様子にリヒトは声を出さないように笑う。
「「リヒト!」」2人の声が重なる。
それを皮切りに遂に声を上げて笑いだすリヒト。
それから数分の間リヒトが笑い、とシンが焦り、それがまたリヒトを笑わせる――と言う悪循環が続いた。
ようやくリヒトの笑いが収まって来た。
「2人ともおもしろすぎるよ。でも、そろそろやめないとね・・・さっきからのお兄さんがすごい勢いで睨んできてるよ。」
リヒトの言葉に振り向いて見れば、そこにはスコールが立っていた。
「・・・・・・・。」
「お、お兄ちゃん?」
今なら武器を使わずしてアルケオダイノスを追い払えそうなスコール。
は内心ビクつきながらも恐る恐るスコールに近づく。
「・・・・・。」
「おーい・・。」
反応の無いスコールの前で何度か手を振って見せる。
――ガシッ
「わっ!」
スコールは突然、目の前で揺れていたの手を掴むとそのまま歩きだした。
「え?えっ?く、車は・・?」
「・・・さっきサイファーが乗って行った。」
「あ、そうなんだ・・。じゃあ、私達の班の車に乗って・・・・・・・・行きませんよね〜はは」
眉間にまた一つ深い皺を刻んだスコールを見て、はこれ以上彼を怒らせない為に黙って歩くことにした。
そんな二人を一台の車が颯爽と追い越して行く―――リヒトとシンだ。
清々しいほどの笑顔が逆にの癇に障った。
今すぐに追いかけてタイヤから空気を抜いてしまいたいところだが、
生憎スコールがしっかりとの手を握っているので、計画は未遂に終わるのだった。
† † †
ガーデンに戻った2人は、ホールの前でシド学園長、キスティス、シュウの姿を見つけた。
どうやら、会話の内容は今回の実地試験のようだ。
「任務成功。めでたしめでたしってとこね。候補生も無事に帰って来たし。まぁ、ガルバディア軍の目的が電波塔だったとは予想外だけどね。」
シュウの言葉にシドが付け加えた。
「たった今、ドール公国から情報が入ったんですよ。
電波塔を整備して、発信可能にしておくと言う条件で、ガルバディア軍は撤退したそうです。」
「うーん、何はともあれガルバディアは撤退しちゃったて訳か。もう少し暴れてくれればSeeDの出番も増えてお金も稼げたのにね。」
シュウが溜め息を吐きながら、辺りを見渡す。
そしてスコールとに目を止めた。
「君達、中々やるじゃない。」
声を掛けられた2人は正反対の反応を見せる。
一方は嬉しそうな表情を見せ、もう一方は面倒くさそうに黙っている。
敢えて名指しはしないが。
「でしょ?私の自慢の生徒なの。無愛想なのが玉に瑕なんだけどね。」
キスティスの言葉に主語は無かったが、彼女の目線の先にはスコールがいる。
「・・・。」
「(やばいっ)」
バラム到着時からやたらに機嫌が悪いスコール。
キスティスの言葉にこれ以上気を悪くしたらたまったものではない。
がフォローを入れようとすると、横から人の気配がした――シド学園長だ。
「戦場の雰囲気はどうでしたか?」
「・・別に。」
「別に?それは良いですね!別に、ですか!」
何処が気に入ったのか、シドは嬉しそうに手を合わせると、興味深げにスコールを見る。
そんなシドに一同は首を傾げるが、こんな事は日常茶飯事なので其れ以上は突っ込まなかった。
「まぁ、皆さん怪我も無く何よりですね。」シドも何事もなかったかの様に微笑んでいる。
その後シドらと別れた2人はあてもなく当ても無く歩いていた。
「試験の結果発表はもう直ぐだから、この辺に居るといいわ。」とキスティスに告げられたので、
その言葉通りこの辺りに居ることにした。
すると、足音が此方に近付いて来た。
音の主はサイファーの様だ。
「よぉ、聞いたか?ドールの電波塔の事。撤収命令さえ無ければ俺達は今頃、ドールの奴等に感謝されたのにな。」
「貴方、何も考えて無かったでしょ?」
サイファーの後ろから現れたキスティスが言った。
同じく彼の後ろから姿を現したシュウも頷く。
そして更に「暴れたかっただけの癖に。」と続ける。
「・・・先生。そういう決め付けが生徒のやる気を無くすんだ。半人前の教官には分からないかもな。」
サイファーは苛立ちながらキスティスに反論した。
「サイファー、いい気になるんじゃないよ。B班が持ち場を離れた責任はアンタが取るんだからね。」
「え、」
シュウの言葉には思わず声を漏らした。
「どうかしたのか?」
隣のスコールに声を掛けられると、は慌てて「何でも無い。」とだけ伝えて、再びサイファーに視線を戻す。
(持ち場を離れるってそんなにヤバい事なのー!?)
シュウの言葉に焦り出す。達の班は持ち場を離れるどころか、其処へすら辿り着いていない状況だ。
そんな事が彼らにばれたら、自分達もサイファー同様に責任を問われるに違いない。
(ヤバい、ヤバいよこの状況!)
1人焦るを尻目に会話はどんどん進められていく。
「戦況を見極め、最善の作戦を取るのが指揮官ってもんだろ?」
「万年SeeD候補生のサイファー君、指揮官だなんて笑っちゃうわ。」
シュウは呆れ顔で言われ、サイファーは拳を強く握る。
(、悔しいんだね、サイファー・・。)
血が滲みそうなくらい強く握られた拳を見て思わずにはいられなかった。
シドがサイファーの元へ歩み寄って言った。
「サイファー、君は今回の件で懲罰を受けることになるでしょう。集団の秩序維持の為には仕方の無い事です。
でも、私は君の行動が分からないでも無いのです。君達には唯の傭兵にはなって欲しくありません。
命令に従うだけの兵士にはなって欲しくないのですねえ、私は・・・。」「学園長。」
遮る様に声を掛けてくるガーデン教員。
其のタイミングの良さを疑わずにはいられない。
課題の時にも見たがこの教員、明らかに怪しすぎる。
顔を覆う黄色の帽子と肌を絶対的に見せまいとする長い袖の服。
の視線に気付いているのか、いないのか、シドに学園長室に行くよう促す。
「・・・まぁ何と言うか、色々ですねぇ。」とだけ言い残すとシドはその場を立ち去った。
「SeeDは契約及び与えられた命令以外の行動はしてはいけない。SeeDはボランティアでは無いからな。
今回の件はドール公国にとっては、素晴らしい教訓となるだろう。SeeDを雇うのに金を惜しんではいけないと言う教訓だ。」
シドとは真逆の事を言うと、教員は去って行った。
暫くその場は無音となったが、やがて校内放送が流れた。
『本日のSeeD選抜実地試験に参加した生徒は速やかに二階廊下前教室に集合せよ。繰り返す、本日の・・』
放送を聞いたスコールは二階へと歩を進めた。
もスコールに続こうとしたが、振り返ってサイファーを見る。
案の定、彼は動こうとしていなかった。
は、サイファーに近付いて未だに堅く握られた手を取った。
その手を優しく解いてやると、血が滲んで赤く染まった掌が。
「あーぁ、血でてるじゃんか。」
そう言いながら、ポケットからハンカチを取り出した。
「・・・。」
何も言わない所を見ると、さっきの事が相当悔しかったんだろう。
もまた何も言わずにそっと血を拭う。
「これでよしっと!ほら、合格発表始まるよ?何時までそうしてる気?」
「・・・。」
それでも動こうとしないサイファーの手を握って、は「行こ?」と言いその手を引っ張る。
サイファーは何も言わず従った。
(皆、合格しますように!)
はそんな事を考えながら、二階へと向かった。
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