Rinoa
--------------------------------------------------------------------------------
二階の廊下前に着くと、既に他のSeeD候補生達が集合してた。
その中にはゼルやスコールの姿はあったが、何故かセルフィやリヒト達の姿は見当たらなかった。
が小首をかしげていると、先程までざわついていた周囲が急に静まり返った。
ガーデン教員が来たのだ。
手には何かのリストを持っている。
(合格者リストだ・・・)
は胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
果たして自分の名前はそこに記されているだろうか?
そんな不安を抱えながら、はガーデン教員が口を開くのを待った。
† † †
学園長室にはを含め5名の合格者が集まっていた。
シドの前に合格者が並び終えたのと同時にガーデン教員が「今回のSeeD認定試験合格者はこの五名です」と言う。
シドは頷き返すと彼らの顔をじっくりと見やった後、
「まずは、おめでとう。
しかしながら・・・これから君達はSeeDとして、世界中に派遣されることになります。
SeeDはバラムガーデンが世界に誇る傭兵のコードネーム。SeeDは戦闘のスペシャリスト。
でも、其れはSeeDの一面を表しているだけです。時が来ればっ「学園長、」
ガーデン教員が熱く語るシドの言葉を遮った。
そしてシドが何か言い出す前に、すかさず口を開き、
「会議の時間が迫っています。手短に行きましょう。
SeeDはガーデンの重要な商品だ。其の価値を高めるのも、貶めるのも君達一人一人にかかっている。
心して任務に取り組んでもらいたい。・・これが学園長の仰りたかった事ですよね?
認定証及びSeeDランク通知書授与!」
そう言い切った後、学園長から認定証とSeeDランク通知書が渡された。
その一連の動きが終わると、シドは一人一人に耳元で声を掛ける。
隣のスコールにシドが何か伝えた後、の元へ・・
「・・・・・(彼との絆を大切にして下さい。)」
そう一言告げると、シドは再びガーデン教員の隣へと戻っていた。
「これでSeeD認定式を修了する。解散!」
教員の言葉を聞くとゼルとセルフィ、もう一人の合格者は出て行った。
も彼らに続いて部屋を立ち去ろうとしたが、
スコールがまだシドと話している様子だったので待つことにした。
扉の付近でスコールを待っている時、G.Fについて考えていた。
(そう言えば、他のガーデンはG.F.って評判悪かったな、・・確か、使用者が記憶を無くすとか。)
は今までにG.F.を何度か使用してきたが、そんな症状は一切見られなかった。
(やっぱ、噂なのかなぁ・・。)
そんなことを考えている内にスコールがシドとの話を終えてこちらに来たので、
は考えるのを止め、彼と共に学園長室を後にした。
† † †
SeeD認定式の後、ガーデンでは盛大な就任パーティが行われていた。
支給されたばかりの新品のSeeD服を身に着けたは、その規模の大きさに驚きを隠せなかった。
華やかな装飾で飾られたパーティ会場に普段の物静かな雰囲気は欠片も感じられない。
そんなガーデンの様子に戸惑っているに誰かが声を掛けた。
振り返ってみると、其処には自分と同じ真新しいSeeD服に身を包んだゼルの姿が。
会場で配られている酒を飲んでいたのか、その顔はほんのりと赤く染まっている。
「よ!これからはお互いSeeDだな。ま、これからもよろしく頼むわ!」
「うん、こちらこそよろしくね。」
「はーっ、妹はこんなに愛想がいいのになぁ。それに比べて兄貴の方は・・。」
そう言いながら項垂れるゼルには苦笑いをする。
「ごめんね、あんなお兄ちゃんで・・。」
「あ、いやっそういう意味じゃねえって!」
慌てて訂正を加えるゼル。
「大丈夫、気にしてないから。」
もう慣れっこだから、と付け加えるにゼルは安心したように笑みを浮かべた。
「流石だな。じゃ、俺もう行くわ!まだ挨拶してねぇ奴もいるからな。」
そう言ってゼルは人混みの中へと姿を消していった。
すると、ゼルと行き違うようにして今度はセルフィに話し掛けられた。
「セルフィ!」
「やっほー!SeeD服似合ってるじゃん。」
「ありがと。セルフィも似合ってるよ。」
「ほんと?ありがと〜!あ、突然なんだけど学園祭実行委員やらない?」
「学園祭・・?」
そういえば、セルフィは実行委員やってるんだっけ。
がそう思っていると、「時々手伝ってくれるだけでいいからさ!」とセルフィが続けた。
「んー・・時々でいいなら。」
「ほんと!?ありがとーっ!ついでにスコールも誘っておいてね!
さっき声掛けてみたんだけど、言う前に断られちゃってさぁ。」
「お兄ちゃんらしいね。多分断られるけど、一応誘ってみるよ。」
「よろしく〜!のお願いだったら絶対聞いてくれるよっ」
「だといいけどねぇ。」
「大丈夫だよー、にだけみょ〜に優しいからねスコールは!
これからSeeDで忙しくなるけど学園祭の準備も頑張ろうね!」
そう言い残して、セルフィは去って行った。
はセルフィに手を振って見送る。
(そういえば、まだお兄ちゃんの正装姿見てなかった・・・て言うか、ちゃんと来てるかな。)
元々人付き合いを好まないスコールがこのようなパーティに来るのだろうか。
はスコールと共に来なかったのを軽く後悔した。
(・・とりあえず、探してみるか。)
† † †
スコールを探し始めて、暫くたった後ようやく目的の人物を見つけることができた。
やっとの思いで見つけ出すことができた彼は、いつも通りの無表情で一人壁に寄りかかっていた。
いつもと変わらないスコール、表情だって態度だって見慣れている彼なのに何故かは声を掛けられない。
(そっか・・今日は正装だから。)
SeeD服に身を包む彼は、何となく別人の様に思えた。
(かっこいいな。)
――トクンッ
そう思った刹那、の胸が高鳴った。
「え?」
思いもよらない事には戸惑う。
(え・・ちょ、相手はお兄ちゃんだよ!?いくら見慣れない格好してるからって兄弟相手にときめくって・・。)
そうして心の中で葛藤を続けていたはようやく結論に至った。
(とにかく!さっきのは正装姿があまりにも似合ってたから驚いただけで、それ以外の意味は無い!)
「うんっ」
そうやって一人納得していると、はっと今の自分の状況を思い出した。
(私、かなり怪しい人じゃん!恥ずかし〜っ。)
は居ても立っても居られなくなり、スコールの元へ向かった。
近くに行くと、其処には見知らぬ少女と話しているスコールの姿が。
少女は背中までの艶のある黒髪を揺らめかせ、スコールに笑いかけていた。
纏っている白色のドレスが髪をより一層美しく見せる。
スコールは少々迷惑そうな顔をしていたが、二人の姿は美男美女としか言いようが無いくらいお似合いだった。
「・・・。」
は二人に気付かれぬようにそっとその場を立ち去ろうとした。
「?」
だが、その前にスコールに気付かれてしまった。
声を掛けられた以上、無視するわけにもいかずは出来る限りの笑顔を作りながら二人の元へ。
「・・どうしたの?」
平然とした態度で兄に声を掛ける。
自分を見つめる少女の視線が辛い。
遠目で見ていた時よりも、ずっと綺麗な少女には何となく引け目を感じた。
―早く立ち去りたい
そんなの気持ちなど露知らず、スコールは中々口を開こうとしない。
「お兄ちゃん・・?」
そんなスコールを不思議に思ったはそっと顔を覗いてみる。
俯き加減のスコールの顔は赤く染まっていた。
「い、いや何でもない・・姿が見えたから、声を掛けただけだ・・。」
段々勢いを失うスコールの声。
「・・?そっか。」
は大して気にしていなかったが、スコールは気が気でなかった。
スコールもと同様に彼女の見慣れない姿に見惚れていたのだ。
「あの!」
先程から蚊帳の外であった少女が痺れを切らしたように声を上げた。
「あ、ごめんなさい!」
すっかり少女の存在を忘れていたは謝る。
そんなに少女も急に声を上げた事に対して謝った。
そして、今度はスコールに向かって「ね、踊ってくれない?」と言った。
スコールは先程とは打って変わって無言になる。
少女は気にせずに「もしかして、」と言葉を続ける。
「好きな子としか踊らないってやつ?」
「えっ?お兄ちゃんそんな初心キャラなの!?」
思わず口に出してしまった事に後悔する。
スコールが威圧感に溢れた目でこちらを見ていた。
「ぅ、ごめんなさい。」
こういう時は素直に謝るのに限る。
スコールはから謝罪の言葉を聞くと、今度は少女の方を見た。
少女はスコールが此方を見たと気付くと、チャンスと言わんばかりに「ね、お願い!」と再度言った。
「知り合いを探しているの。一人じゃダンスの輪に入れないから・・・」
「そうなんだ、・・・お兄ちゃん踊ってあげなよ。」
「・・・踊れないんだ。」
「大丈夫、私がリードするからさ!」
少女はそう言うとスコールの手をそっと取った。
「ぁ、」
の胸にチクリとした痛みが走り、は声を漏らす。
「・・?」
スコールがの異変に気付き振り返る。
「ほっ、ほら早く踊ってきなよ!」
は慌ててスコールを促した。
スコールは納得できない様子で此方を見ていたが、少女に引っ張られる様にダンスの輪に入って行った。
はその様子見て一息ついた後、再度二人を見た。
スコールは覚束ない足取りで、言葉通りお世辞にも上手とは言えないようなダンスを披露していた。
隣のペアとぶつかった際に少女の手を振り切って輪から出ようとしたが、
少女の懸命な説得により渋々といった感じで再び踊りだす。
最初はどうなるかと不安になっていただが、やがてその不安は消え去った。
ダンスの終盤に差し掛かると、苦手とは思えないほどの見事な足捌きを披露していた。
(踊れないとか言って・・・上手じゃんか。)
そう安心していると、急に胸を締め付けられる様な気分になった。
は二人を見て居られなくなり、その場を後にした。
|