発情期犬注意報!!
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「そういう事があったんですか。」
「はい、それで卓さんなら何か知って・・・って、真弘先輩人の肉取らないで下さいよ!」
「いいじゃねーか、まだ沢山あるんだからよー。」
「だったら、俺のじゃなくて・・。」
「はぁ・・珠紀さん続きを説明してくれますか?」
「あ、はい。」
説明を放棄して真弘を奪取し合う拓磨に代わって、珠紀が説明をすることにした。
珠紀の説明を聞き終えた卓は暫くの間考える様な素振りを見せた。
「昔話なんですが・・猫檀家と言う話を知っていますか?」
「猫檀家・・?」
「はい、貧乏な寺の猫が恩返しのにと空に棺を上げて、和尚に手柄を立てさせる昔話です。
俗に言う猫の恩返しですよ。これは推測なのですが、鬼崎君が何らかの形でさんを助けたのでは?」
「拓磨が・・?」
そう呟いて、未だに肉を取り合っている拓磨を見た。
「鬼崎君、ここ最近猫を助けた覚えはありますか?」
「へ?「いただきーっ!」あっ!?」
動きが止まった隙を付いて、真弘が拓磨から肉を奪う。
悔しいが今ここで、反撃すると間違いなく卓さんに喰らわされる。
「あー、猫ッスか?」
肉を諦め、拓磨は過去を振り返る。
うー、と唸っていたがその内何か思い出してきたらしくだんだん顔を顰める。
「何か思い出したんですか?」
「あー、一週間くらい前に犬ッコロに襲われかけてた猫を助けた気がする・・・。」
「そうだったんですか。じゃあ、その猫がちゃんだったんですね!」
「あぁ・・。」
そう言う拓磨の顔は青ざめていた。
「大丈夫ー?」
隣に座っていたが心配そうに見上げる。
拓磨はの頭を撫でながら大丈夫だと告げる。
「拓磨?」
「いや、あの時の事を思い出しただけだ・・。」
「??」
拓磨の意味深な言葉にますます謎が深まる。
「何かあったんでしょうか。」
「みたいだね・・。」
「・・・その犬ッコロと言うのは、狗谷の事か?」
白滝を咥えながら祐一が言う。
「狗谷!?」
辺りが凍りついた。
全員が拓磨を見つめる。
拓磨は箸を置きながら、頭を掻く。
「ッス、一週間くらい前の事なんッスけど・・
――老舗甘味処とらやで期間限定!極上餡子鯛焼きの発売日で、
鯛焼きを買った帰り道・・道端に一人の男が蹲っていた。
横目で男の顔を見ると、あの忌々しい狗谷だった。
面倒事に巻き込まれないように、足早に過ぎようとした時・・
「にーー!」
予想外の鳴き声が聞こえて、思わず足を止め狗谷に話し掛けていた。
「何してんだお前?」
「あ?なんだよ、鬼か。」
「悪かったな・・ん?」
犬っころの腕には一匹の白い仔猫がいた。
「・・・・。」
あまりのミスマッチさに静止してしまったが、俺はその間に1つの仮説を立ててみた。
―――in拓磨の脳内
いつも通り活気付いた商店街を一匹狼・狗谷遼は歩いていた。
彼はなんの刺激も無い日常に嫌気が差していた。
「にー。」
どこからか、猫の鳴き声が聞こえた。
ふと、足元を見てみると一匹の仔猫がいるではないか。
「にー。」
しっかりと鳴けていないところをみると、どうやらまだ生まれて間もないようだ。
辺りを見回して親猫を探してみたがそれらしい猫は見当らない。
「・・・お前、一人なのか?」
「にー。」
まるで、狗谷の問い掛けに答えるかの様に仔猫は鳴いた。
狗谷は仔猫をガラス細工を扱うようにそっと抱きあげる。
「俺と一緒にくるか?」
「に!」
狗谷はしばらく退屈な日々とはおさらばできそうだと思った―――――
「(コイツも意外にいいとこあるんだな。)」
自分の仮説と知りながらも、そう考えると少しだけコイツを見る目が変わった。
しみじみしている俺を尻目に狗谷は仔猫に話しかける。
「お前、いい匂いがするな・・。」
「に?」
・・アレ?このフレーズ聞いた事あるんだけど。
なんか危険な匂いがするんだけど・・。
え、ちょ、お前何で涎垂らしてるわけ?何で口開けてるわけ?
「みゃーーッ!?」
身の危険を伝えようと、仔猫が声を張り上げる。
「っておぃ!!!お前何してんだよ!」
仔猫を自分の口に入れようとしている狗谷から強制的に猫を奪った。
「チッ」
「いや、チッじゃないだろが!何で食べようとしてんだよ!?」
「いい匂いがしたからな。俺はお前と違ってグルメなんだよ。」
「お前、珠紀の事そんな風に見てたのか・・。」
「あ?食うって言っても、ただ食べるんじゃなくてse「おぃぃッ!そっちのがタチ悪いぞ!?」
放送禁止用語を発する狗谷を無理やり黙らす。
「これだから、発情期犬は・・・。」
「うるせぇよ。その猫は俺のもんだ、返せ。」
「断る、お前また口に入れるだろ。」
「あたりまえだ。」
「いや、否定しろよ。」
暫くの間、猫の争奪戦を繰り広げていたが、場所が場所なので目立つ・・・
当然、周りの目というものもあるわけで・・・。
「(仕方ない、逃げるしかないな。)」
くるりと狗谷に背を向けて、俺は一目散に走って行った。
後ろで狗谷が騒いでたが、気にすることなくそのまま全力でその場を去った。
ある程度、商店街から離れたところでスピードを緩めた。
振り返って誰も追っかけてこない所を確認すると、そっと抱いていた仔猫を地面に降ろしてやった。
「ここなら大丈夫だ。じゃあな、犬ッコロには気をつけろよ。」
「にー。」
「いい子だ。」
頭をそっと撫でると、そのまま帰路に着いた――――
って事があったス。」
「確実だな。」
珍しく長い話でも寝ずに祐一先輩の言葉に卓さんも頷いた。
「そうですね、おそらくその仔猫がさんなのでしょう。
それにしても、狗谷君にそんな癖があるとは・・。」
「厳重注意ですね。」
いつもよりオーラが黒い慎司が呟いた。
「あぁ。」
いつもより、場の空気が黒いのは俺の気のせいだろうか・・。気の所為であって欲しい。
「最近、腕が鈍ってきたんですよね・・。」
「そ、それだけ平和ってことですよ、卓さん!」
眼鏡が逆光している卓さんを珠紀が慌てて宥める。
「そうッスよ、それにの正体も分かったことだし。」
「・・そうですね。とりあえず、さんが新たな敵と言う線は消えたとことですし。」
え?敵?あんた、敵と疑ってたヤツと手繋いでたんですか?
内心そう思ったが、口に出したら殺される事が目に見えていたのでその疑問は墓場まで持ってく事にしよう・・。
「(ま、とりあえずコイツの事が分かってよかった。)」
「に?」
口の周りに付いたタレをふき取ってやる。
「これから、よろしくな?」
「うん!」
――この後、いつの間にかが肉を食いつくしていた事実が発覚し、
俺が責任を負わされた事はもう思い出したくない。
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