仔猫と子狐―前篇―
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午前中の授業が終わった。
今日は特に指名されることもなく楽だったと思いながら、拓磨は机の横に掛けてある鞄を探る。
「?」
いくら探ってもお目当ての弁当の感触が無い。
「(そういえば、鞄に入れた記憶ないな・・。)」
忘れたものは仕方ない、そう思って購買で何か買うことにした。
「ごめんねぇ、もう全部売り切れちゃったんだよ。」
申し訳なさそうに眉を下げるおばちゃんの背後には"SALE・今だけパン半額!"とでかでかと書かれていた。
自分の運の無さを恨んだ。
しかし、無いものは仕方ないと最後の手段に賭けることにした。
「(慎司辺りに恵んでもらうしかないな。)」
拓磨はそのまま屋上へと足を進めた。
―――ガチャリッ
鉄製の重い扉を開ければ、いつもの光景が広がる・・・・はずだった。
「お前、なんで・・。」
しかし、拓磨の目の前には今頃家にいるはずであろうが立っている。
「拓磨様〜♪」
何故かご機嫌なが驚く拓磨に抱きつく。
とりあえず、自分の足にしがみ付くを抱き上げて皆の所へ向かった。
「遅かったね。」
珠紀が声を掛ける。
「あぁ、購買に行ってた。」
そう言いながら、胡坐をかいてその上にを乗せる。
「今日はパンなんですか?」
「弁当忘れたんだ。」
「そうなんですか。あ、でも今日ってセールやってましたよね?」
「あぁ、お陰で何も残って無かった。」
目の前でピクピク動くの耳を弄りながら答える。
「にー。」
耳を弄られるのが気持ち良いらしく、は目を細める。
「じゃあ拓磨どうするの?」
「・・・どーすっかなぁ。」
これからまだ2時間も授業があると言うのに、耐えれるだろうか・・。
育ち盛りの高校生に昼飯抜きはツライ、いっそサボってしまおうか・・と思っていると目の前に何かが現れた。
「ん?」
よく見るとソレは、が渡そうとしているもモノであり、四角くて藍色の布で包まれている。
「おべんと!」
「へ?弁当?・・・俺の?」
は頷くと拓磨の前にズイッと近づける。
「に感謝しろ・・お前の為にわざわざ届けに来てくれたんだ。」
祐一がお稲荷さんをほおばりながら言った。祐一の言葉に胸がキュンとなった。
「ありがとな。」
「うん!」
がふわりと笑う。その仕草があまりにも可愛くて、思わず抱きしめる。
――きゅるるぅぅ
ふと、の腹から高めの音が鳴る。
「にっ。」
少し顔を赤める。
「飯・・・食べてないのか?」
「一緒に食べるの。」
「待っててくれたのか?」
「ん。」コクリと頷くにまた胸が高鳴った。
――コイツは俺をキュン死させる気か。
祐一は二人のやり取りに頬を緩めた。
「ちょっと遅れたが飯にするぞ!」食べかけの焼きそばパンを片手に真弘が言った。
拓磨は飛んでくる食べカスに思わず顔を顰める。
「真弘先輩既に食べてるじゃないですか・・。」
珠紀の声は騒ぐ真弘の声に掻き消される。
少し遅めの昼食が温かな日差しの中始まった。
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