灰かぶり―中篇―

-------------------------------------------------------------------------------- しばらくして、馬車が止まりました。お城についたのです。 御者が馬車の扉を開けてくれて、は馬車から降りました。 目の前には、空へとそびえ立つ立派なお城がありました。御者に見送られて、は一歩また一歩とお城へと足を進めました。 幼い頃の夢が叶うと思うと、鼓動がだんだん加速していきます。 お城の従者が、を大広間へと案内してくれました。 「ここでございます。」 従者は大広間の扉を開けてくれました。は思わず目を見張ってしまいました。 幼い頃母に呼んでもらった絵本の情景が、まざまざと頭の中に広がっていくようです。 まるで絵本の中へと入って行くような気持ちでは大広間へと足を進めます。 すると、広間はシンと静まり返ってしまいました。 踊りも音楽も喋り声もすべての音がプツリとやんで、美しい姫君に視線を向けました。 若い娘たちはの髪飾りやドレスを食い入るように見つめ、 母親達はどこの娘かをしきりに言い当て合い、男性陣はその美しさに声も出ませんでした。 「(本当に絵本の中にいるみたい・・。)」 は自分に視線が注がれているのに気が付かないで、 あちこち視線を移してもう見ることのない光景を心の中に残していきます。 美しい姫君が来たことを知った王子は、走って彼女のところへと迎い、さっそくダンスを申し込むことにしました。 「(王子様を見てみたいんだけど、どこにいるのかな。)」 が周りを見ながら歩いていると、誰かにぶつかってしまいました。 「!すみませんっ。」 は慌てて頭を下げました。 「いいだーね。怪我はないだーね?」 ぶつかった人は特徴的な語尾で、せっかくの紳士が台無しです。 「あ・・はい、大丈夫です。(この声、どこかで・・)」 そう言って顔をあげると、他の男性よりも高級そうな服を着ている男性が立っていました。 は一目でその男性が王子であることに気が付きました。 「(や、柳沢ーーー!!??)」 開いた口が塞がらないに王子は心配そうな表情を浮かべ、 「大丈夫だーね?やっぱり、どこか痛むだーね?」 「あ、いえ大丈夫です・・・。(せめて、野村君がよかった・・。)」 王子の言葉で、現実世界へと戻った。王子はにんまりと笑顔を浮かべて、 「よかっただーね。じゃあ、さっそく踊るだーね。」 そういっての手を取りました。 「あ、はい。」 ここで、断るわけにもいかずは王子と踊ることになりました。 はまだ父が生きていた時に、よくダンスを踊っていたのでとても上手に踊っています。 王子も日ごろの練習のお陰か、2人とも踊りが上手く、人々は見とれていました。 王子は、の美しさに心を奪われてしまい、豪華な食事も食べずにずっとの傍にいました。 王子はにすっかり夢中になってしまい、是非とも彼女と結婚したいと思いました。 も心優しい王子に惹かれつつありましたが、どうしてもあの時助けてくれた魔法使いのことが忘れられません。 「(私、彼のことが好きなんだ・・。でも、もう2度と会うことができない。)」 表情がだんだん沈んでいく、に王子が口を開こうとした瞬間・・・・ <<ゴーーーンッ、ゴーーンッ>> 重々しい鐘の音が大広間に響き渡りました。夜中の12時を告げる、大時計の鐘の音です。 はっとして、時計を見上げれば長針・短針ともに12の文字を指していました。 はさっと青ざめました。 「(12時になってしまったわ。魔法が解ける前に早くッ!!)」 鐘の音が鳴り終わった瞬間、魔法が切れて美しいドレスもガラスの靴もすべて消え去ってしまいます。 は、また元のみすぼらしい灰まみれの女の子に戻ってしまいます。物言わず、は王子のもとを去ってしまいました。 「待つだーね!!!どこにいくだーね!?」 驚いた王子は慌ててを止めようとしますが、振り向かずに階段を駆け下ります。 <<ゴーーーンッ・・・>> 完全に鐘が鳴り終わったときには、名も知らない美しい姫はどこにも見当たりませんでした。 「行ってしまっただーね・・・。」 あまりに急なことで呆然と立ち尽くした王子でしたが、ふと目線を下にやるときらきら光るガラスの靴に気付きました。 「あの子の靴だーね。」 さっそく王子は靴拾い上げ、後からやって来た王様に言いました。 「俺はこの靴にぴったりと合う子と結婚するだーね!!」 †                  †                  † 「ふぅー、間に合ったぁ。」 ぎりぎりのところで間に合ったは、床に転がるものを見つめました。 「何で、かぼちゃだったんだろう・・?」 部長「・・・そこかよ。」 独り言のつもりだったのでまさか返事か返ってくるとは思っておらず、振り返ってみると御者が立っていました。 「(あ、そっか。御者は人間だったもんね。)」 ネズミと一緒にどこかに行ってしまったと思っていた御者は、意外にも傍にいたようです。 「はぁ・・。」 部長「どうした?元気ないな。舞踏会つまらなかったのか?」 「ううん・・楽しかったんだけど。」 部長「本当に踊りたかった奴がいなかったのか?」 御者はニヤリと口元を上げました。 「うん、王子様も素敵な方だったんだけどね・・。」 部長「そうか・・・。なぁ、」 御者が何か聞こうと、口を開きかけたその時・・ <<ギィィィッ>> 扉が開く音がしました。 観月達が舞踏会から帰って来たようです。 「お母様達が帰って来たわッ。もう戻らなくちゃ!ありがとう御者さんッ。」 そう言い残すと立ち上がって、裏口のほうへと駆けて行きました。 バタンっと閉じられた扉を見つめながら、 「がんばれよ。」 御者はそう言い残して、森の中へと姿を消してしまいました。 一方は、何事もなかったように台所から出てくると、そこには不機嫌そうな観月と観月を必死でなだめる2人がいました。 「くそッ!!僕のシナリオが台無しになってしまったじゃないかッ。」 どうやら、王子様がに一目惚れしてしまったことが気に食わないようです。 そこで、は場の空気を和らげようと姉に話しかけました。 「舞踏会はいかがでしたか?」 裕太「あぁ、楽しかった・・・、今日はずっとこの家にいたよな?」 裕太の言葉にはっとして、観月と金田がを見つめました。 「はい、ずっといましたよ?(ばれないようにしないと・・。)」 観月「(確かに、あんな美しい方はそういませんね・・。)シンデレラ、本当に家から出ていないのですね?」 ずいずいっと観月がに近づいてきました。 「は、はい。」 あまりの気迫に口が滑りそうなでしたが、なんとか誤魔化すことができました。 観月「そうですか・・。(厄介なことになりましたね・・。)」 観月はから体を離すと2人に何か話していましたが、ここからの距離では何も聞こえませんでした。 ぼぉっと立っていると、観月が振り向きました。 観月「もう部屋に戻りなさい。」 「わかりました。おやすみなさい、お母様、お姉様。」 は3人にそう言って、階段を上って行きました。 が自分の部屋に戻ったことを確認した後、観月は金田・裕太に言いました。 観月「僕の感が正しければ、あの時の姫はです。」 裕太も金田もなんとなく予想していたことなので、驚くことなく観月の言葉に頷きました。 観月は二人の反応を確認した後、言葉を続けました。 観月「きっと、柳沢はに結婚を申し込もうと、血眼で捜していることでしょう。次期、我々の所にも訪れるはずです。」 金田「そうですね・・・。問題はどうやって、さんを柳沢先輩から守るか。」 観月「一番の方法は、しばらくの間を家から出さないようにすることですね。事のほとぼりが冷めるまでは・・。」 裕太「そうっすね。いくら従者でも、家の中までは入れないですし・・・。」 大切なを守るためにシナリオどころではない3人は、役すらも捨ています。3人の作戦会議は夜明けまで開かれていました。