灰かぶり―後篇―
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―数週間後―
観月の予想していたとおり、王子の従者と名乗るものが家の前に来ていました。
観月『今日の仕事はありませんよ。その代わり決して部屋からでてはなりません。
いいですね?』
は観月にそう言われていたので、部屋の中で窓から外を眺めていました。
「仕事がないのは嬉しいけど・・・どうしたんだろう?」
いつもと様子がおかしい観月に疑問を抱きつつも、滅多にない休みを堪能することにしました。
―観月side―
2人の従者のうち、王様からのお触れの紙を持っている従者が口を開きました。
従者A「王様の命により、このガラスの靴の持ち主を探しに来ました。」
もう一人の従者がうやうやしく高級なクッションの上に置かれているガラスの靴を差し出しました。
従者A「どちらの方から履かれますか?」
裕太「俺が行く。」
裕太は一歩前に出て言いました。
観月「(いいですか、裕太君。を連れて行かれたくなければ、何としても履くのですッ。)」
観月の言葉に裕太は力強く頷いて、椅子に座り片足を差し出しました。
従者は裕太の前に跪いて、丁寧にガラスの靴を履かせます。
最初のうちは順調に靴に収まっていた裕太の足でしたが、踵の部分がどうしても入りません。
従者B「おや・・?」
従者が不思議そうな表情で顔を傾かせています。
観月が動揺を隠すために、必要以上に扇子を仰がせて言いました。
観月「きっと、舞踏会で踊りすぎて足が腫れているのですよ。」
裕太「そうなんだッ!!あぁ〜昨日は踊りすぎたわーーッ」
観月の言葉に裕太も同意して言いました。
しかし、焦り過ぎて棒読みになっている声に従者は疑いの念を抱きました。
従者A「それにしては、腫れ過ぎではないですか?」
もっともな従者の言葉に、観月は何も言えなくなってしまいました。
従者A「ではもう1人のお嬢様、どうそ。」
従者は裕太があの時のお姫様ではないことを悟ったのです。
指名された金田は裕太同様、椅子に座って片足を差し出しました。
金田「(なんとしてでも、履かなくてはッ)」
しかし、金田の足も踵が大きすぎて履けません。
従者「うーん、どうもこの方でもないようだ・・。」
観月「どうやら、私共の中にはいなかったようですね。では、お引き取りを・・。」
観月がにやりっと笑みを浮かべて言いました。
これで、を守ったっと思ったからです。
しかし、従者の口から思わぬ言葉が出てきてしまったのです。
従者A「いえ、そんなはずないです。あなた方で最後の家ですから・・・。」
従者はきっぱりと言いました。
3人は信じられないという顔をしています。
裕太「(どうします、観月さんッ。俺らで最後だってッ。)」
金田「(このままじゃ、家の隅々まで探されるんじゃ・・。)」
動揺を隠しきれない2人に観月が一括しました。
観月「(落ち着きなさいッ。こうなったら、なんとしてでもあの靴を履かなくてはッ。
仕方がない・・。)」
裕太「(え、観月さん何か作戦でもあるんッスか・・?)」
観月「(えぇ、本当は気が進まないんですがね・・。状況が状況だ。)」
観月は、眉を顰めながら恨めしそうに従者達を見ます。
すると、従者はその威圧感に肩を震わせてしまいました。
観月は視線を戻し、口を開きました。
観月「(ところで、裕太君と金田君ではどちらが足が小さいのです?)」
裕太「(多分・・金田じゃないっすか?)」
顎に手をやりながら裕太は答えました。
観月「(そうですか・・。)」
観月は、金田の顔を見てクスリと笑いました。
金田「!」
その笑い方に何かを察した金田は、顔から冷や汗が流れている。
裕太「(?)」
1人状況をさすることができない裕太に向かって、観月は命じました。
観月「(裕太君ッ!!金田君を取り押さえなさいッ。)」
裕太「(えぇ!!!)」
思いもよらない観月の言葉に裕太は聞き返そうとしましたが、
目の色が変わってしまった観月に逆らうのは良くないと思い、言われた通りにすることにしました。
裕太が金田を取り押さえたのを確認すると、2人の従者のもとへ向かいます。
観月「失礼ですが、あなた方は外で待ってていただけませんか?
あぁ、大丈夫です。ちゃんと、娘は差し出しますから・・ね?」
有無を言わさない観月のオーラに2人の従者はコクコクと人形のように頷いて、大人しく外で待つことにしました。
従者を追い出し後、足早に台所に行って包丁を持ってきた観月・・・何をする気でしょうか?
「・・・それで?まんまと追い出されてきちゃったの?」
馬車の中から静かに声がします。口調こそ穏やかですが、その声には静かな怒りが凝縮されています。
従者A「は、はい・・。しかし、ちゃんと娘は差し出すと・・。」
恐る恐る顔を上げながら、従者は言いました。
「ふーん。」
カーテンが閉まっていて、影しか見えない声の主はクスリと口元をあげました。
―その頃、屋敷では・・―
金田「うわぁぁぁ!!!!観月さん、やめてくださいッ!!!」
ジタバタと足を四方八方に振り回す金田と、それを必死で抑えつける裕太。
裕太「許せ金田ッ!!さんのためだ!!!」
観月「そうですよ?の為ですから・・。それに、ちょっと痛いだけじゃないですか。」
そう言いながら、ジリジリと金田に近づいて行く観月。
その眼は、血走っています。
金田「ちょっとじゃないですよ!!だいたい、歩けなくなりますッ!!」
目に涙をためて、金田は叫びました。
観月「安心しなさい。妃になったら足で歩くこともないですから。」
冷静にそう答えると、暴れる金田の片足を掴み包丁を当てました。
金田「いやだぁぁぁぁぁッッ!!!!!」
「お姉様ッ!!!???」
が慌てて階段を駆け下ります。
観月達があまりにも騒いでいたので、は心配になってきました。
そして遂に金田の絶叫を聞いて、慌てて部屋から出てきたのです。
観月「!?」
驚いて動きを止めてしまった観月の手から、パッと包丁を取ってしまいました。
包丁を取られたことに気づいて慌てて観月が言いました。
観月「何をしているんですッ!?早く部屋に戻りなさいッ!!」
「ですが、お姉様が・・・。」
チラリと金田を見た、このままではまた金田が危ないと思ったのです。
なかなか動こうとしない。
「くそッ。」
痺れを切らした観月がの腕をつかんだその瞬間!!
―ヒュウッ―
何かが観月の頭に直撃しました。
全員「!!!!!」
「ッ!!」
観月はそのショックで、声すら出せずに倒れてしまいました。
「お母様ッ!?」
慌てて駆け寄る。
倒れている観月を心配そうに抱き起します。
裕太「ボール・・?」
裕太が何かに気が付いたのか、手で掴みました。
金田「どうしたんだそれ?」
金田も不思議そうに聞きます。
が振り返ってみれば、裕太の手には黄色い手の平サイズのボールがありました。
「あッ。」
思わず声に出てしまいました。
そう、あれはあの時魔法使いが持っていたボールとまったく同じだったのです。
その瞬間、あの時の情景が頭の中を横切りました。
『そんな悲しそうな顔をしないで。僕が全部用意してあげるよ。』
優しく微笑んでくれた彼。
『クスクス、冗談だよ。』
意地悪そうに笑う彼。
『さぁ、これが僕からの最後の贈り物だよ。』
『楽しんでおいで・・。』
――悲しそうに微笑んだ彼・・―
の頬を涙が伝いました。
切なくて、切なくて・・たまらなかったのです。
本当は舞踏会なんて行けなくてもよかった。
王子様に会えなくたってよかった。
綺麗なドレスも、ガラスの靴もいらないッ。
だから・・・だから、お願い・・もう一度だけ・・・もう一度だけでいいの。
―彼に会わせて・・!!―
「いらないなんて、酷いなぁ。せっかくのために用意したのにさ。」
―ドクンッ―
心臓が跳ね上がりました。
低くもなく、高くもなく、心地よい声。
が振り向くと、そこに立っていたのは・・・。
「あ・・つし。」
は夢かもしれないと思いました。
それでも、嬉しくてたまりません。
―夢でも構ない、もう一度彼に会えるなら―
「久ぶりだね。」
魔法使い――・・・いえ、淳が微笑みました。
あの時とは違って、真っ黒の帽子を被っていませんでした。
だからでしょうか、あの時よりもずっと彼の瞳が綺麗に見えました。
「また・・会えた。」
は喜びと安心で体中の力が抜け、床に座り込んでしまいました。
「クスクス、大丈夫?」
その表情は小馬鹿にしたような表情でしたが、今のはそんなことを気にしませんでした。
彼がそこにいる、ただそれだけで嬉しかったのです。
―カツンッ カツンッ―
一歩、また一歩とに歩み寄る淳、そしてあと一歩という所で足を止めました。
の表情に陰りがあることに気が付いたのです。
「(淳は魔法使い・・シンデレラは、王子様と結婚しなきゃいけないんだよね。)」
はまた泣きたい気分になりました。
大好きな彼が目の前で手を差し伸べているのに、はその手を取ることができないのです。
そんなの心情を感じ取った淳はほんの一瞬だけ、口元を緩めました。
しかし、すぐに真剣な表情になっての前に跪きました。
「昔ね・・森に遊びに行ったことがあるんだ。」
「え?」
が顔を上げると淳はどこか遠くを見なていました。
それは、まるで幼いころの夢を見たような、懐かしくて・・・でも、どこか切ないそんな表情でした。
「そこには綺麗な湖があって・・・真っ白な白鳥の親子が泳いでいたんだ。」
裕太「あ、観月さん起きたんッスか。」
いつの間にか横に立っている観月に気が付いて、声をかけました。
観月「ッツ・・木更津の奴・・。」
観月は淳を恨めしそうな目で見ますが、淳はそんな2人を気にせずに話を続けます。
「僕はその白鳥が欲しくてたまらなくなった・・・。それで、僕は父上に頼んで猟師を雇って、その白鳥殺してしまったんだ。
子供のほうの白鳥をね。そしたら、怒った親の白鳥が僕に呪いをかけたんだよ。
その時から、僕は昼間は白鳥の姿で・・・夜にだけ呪いが解けるんだ。ほら、にあったときも夜だったでしょ?」
「あ、そうだったね。」
は、納得しました。
裕太「あれ?シンデレラって白鳥出てきましたっけ・・?」
金田「いや・・・それに王子様って普通に人間だような・・。」
そんな会話をしている2人に向って淳は、何か訴えかけているようです。
―黙らないと呪うよ?―
裕太・金田「!!!!!」
淳の訴えが2人に届いたのか、裕太も金田も銅像の如く動かなくなりました。
「でも、私がお城で会った王子様は柳沢だったんだけど・・。」
「あぁ、あれはね・・・僕が急いでお城に戻ろうとしたら、柳沢が勝手に僕になりすましてて・・。」
本当はと踊りたかったんだけどね・・と淳は残念そうな顔をしていました。
「そうだったんだ。」
「でも、大丈夫だよ。だって、これからはいつでもの傍にいられるからね。」
淳は今までにない程嬉しそうに笑いかけました。
「///」
そんな淳に思わず見惚れてしまいました。
「どうしたの?」
一方、本人は自覚がないようです。
「ううん、なんでもないよ?」
が笑いかければ、淳も笑い返してくれます。そして何か思いついたらしく、従者を呼びつけ耳打ちしました。
すると、従者はにっこりと笑って、急いで玄関を飛び出していきました。
それから数分もたたないうちに戻って来て、持って来た物を淳に手渡しました。
それは、キラキラ光るガラスの靴です。
淳はの足をそっと持ち上げて履かせてあげました。
スルリと滑ってピッタリとガラスの靴に収まるの足。
「あの時の・・。」
驚いた様子で呟く。
「もう片方も・・・。」
淳はパチンッと指を鳴らしました。すると、その手にはもう片方のガラスの靴。
「えッ」
更に驚くを見てまたあの独特の笑いをしながら、優しく靴を履かせてあげました。
まるで、氷の上を滑るかのようにスルリと靴に収まったの小さな足。
の足が収まった瞬間、優しい光がを包みました。
「・・・!!」
やがて光が消え失せると、そこには煤だらけでみすぼらしい姿のではなく、美しい姫君が立っていました。
淳は満足そうに頷くと、動揺するの前にそっと手を差し伸べました。
「僕と一緒に来てくれませんか?」
ふわりっと笑う淳。
「喜んでッ。」
淳の手にそっと自分の手を重ねる。その表情は幸せそのものでした。
こうして、は淳に連れて行かれ、めでたく結婚しましたとさ。
=Fin=
――あとがき――
終わりました;;
ここまで、読んでくださった姫様方お疲れ様です^^
王子様・・・まさかの柳沢でしたね(゜д゜;;)
最初は、金田か野村にしようと思ってたんですが・・・・、
意外性を求めるばかりに、柳沢と言う答えにたどりついてしまいました;;
いや、彼は彼で紳士的でいいと思います(マジで)
ただ、ちょっとあれですよね・・・・、うん。←
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