La Sirenetta
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「凛、ホントにいいの?」
掟破りなのはわかってる。
「大丈夫さぁ、ちょっと覗くだけさー。」
危ないことだっていうのも承知の上。
「でも・・・。」
後でパパやママに散々怒られるかもしれないけど、
「ちょっとだけやし、な?」
それでも、
「もう・・。」
私は、
「よっし、行くぞッ!!」
陸に恋をする。
† † †
「もう少しさー。」
凛が私の手を引きながら、そう言った。
凛の綺麗な金髪が太陽の光に反射して、その美しさを一層増す。海面が近い証拠だ。
正直ちょっと疲れたけど、ゴールを目の前に休むわけなはいかない。
「疲れたかー?」
頭上から凛の気を使って声をかけてくれる。それと同時に心なしか、凛の進むスピードが遅くなった。
「ん、大丈夫だよ。」
「そうか、もうちょとやしちばれよー?」
独特の言葉遣いと凛の眩しい笑顔が私に向けられた。
ここら辺の言葉で言うと太陽(てぃーだ)の様な笑顔。
何故かそれが、私にとっては眩しすぎるような気がしてちょっと目を細めた。
† † †
達が陸へと目指している時、海面では此処一帯を領地とする一国の王子の18の誕生日会が開かれていた。
船の上には、王族はもちろんのこと、親しい貴族や同盟国の者達が参加していた。
華やかな飾りや、祝いの音楽と反して今回の祝宴の主役である王子―永四郎は船の端にある椅子に座りながら、重い溜息をついた。
永四郎は王子の身分ではあるが、正直このような宴は苦手――否、嫌いであった。
見知らぬ人間との交流はもちろんだが、永四郎が何より嫌うのはこの白々しい大人たちの態度だ。
「(・・誕生日会ですか。そんなもの上辺だけじゃないか。)」
永四郎の予想通り今回の宴は、名前こそ"誕生日会"ではあるが実際は自国の経済力、及び統治力を他国に見せつけるだけの
お披露目会であった。
自分だったら、今よりももっとシャープで手っ取り早い方法でやるのに、などと自分が政権を握った時のことを考えていた。
「では、今回の主役でもある永四郎様に一言いただきましょうッ!!」
宴の進行役である大臣が永四郎のいつの間にか隣に来ていて叫んだ。
今まで疎ら(まばら)だった人々の視線が一気に永四郎へと向けられた。
無数の拍手が見え隠れする期待とともに贈られてきた。
永四郎は本日何回目かになる溜め息をこぼし、重い腰を立ち上がらせ船の中央にある祭壇へと足を運んだ。
† † †
―ジリリリリリリッッ―
「んーーー。」
けたたましい目覚ましの音が、裕次郎の部屋に響き渡る。
1人暮らしの裕次郎の部屋は、必要最低限の物を置くのが精一杯の広さだ。
その為か目覚ましの音がよく響く。
裕次郎は、手探りで音の発生源を捜し出す。
ようやく時計の位置を探り当て、文字盤を目にした。
「ゲッ!!」
スローペースで回転していた脳が一気にフルスピードに切り替わった。
「しんけん!?完全に遅刻やっしッ!!!」
本来目を覚ます予定だった時間よりも裕に1時間は過ぎていた。
慌ててベットから飛び降りて椅子の上に掛けていたツナギに着替えて、部屋を飛び出した。
全力疾走で港まで走る。嗅ぎ慣れた塩の匂いが鼻をくすぐる。
潮風が顔にあたって気持ちよかった。
町から港までの距離は割と近い。
裕次郎が全力疾走で行けば10分とかからない距離にある。
人通りが多い大通りを避けて、通り慣れた狭い路地を駆け抜ける。
そこはお世辞にも綺麗とは言えない道であったが、抜け道としてはとても便利な存在であった。
そんな抜け道を何度も左右に曲がって行くと、潮の匂いが急に強くなり見慣れた青い海が視界一面に広がった。
「おっせーぞ、裕次郎ッ!!」
「また、寝坊したんばー?」
船に乗った仲間達が手を振ってこちらを見ている。
「わっさん!!」
自分を待ってくれていた仲間達に手を振り返す。
船まで残り僅かの距離を一気に駆けた。
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