La Sirenetta

-------------------------------------------------------------------------------- 凛に手を引かれながら、私は海面へ向かっていた。 思えば、彼に出会った時もこうして凛に手を引かれていた。 つい最近の様に思えるが、何年も前の話なんだなとぼんやり考えていたら いつの間にか海面が目先まで迫っていた。 上の世界へ行ったら私は本当に1人になってしまう。 友達も両親も凛さえも側にいてくれない。 そう思うと、別離の悲しみが込み上げてくるがそれを選んだのは私自身だ。 今まで与えられてきたモノ全てと引き換えに私は永四郎に会いに行く。 まるで幼少の頃に聞いた御伽話の1つ、人魚姫のようだった。 彼女もまた人間に恋をして、自分の声と引き換えに愛する人に会いに行った。 しかし、人魚姫の思いは王子には届かず彼女は泡になった。 「私も泡になっちゃうのかな・・。」 思わず零れてしまった不安は凛の耳に届いてしまったようだ。 彼は繋いでいた手を更に強く握った。 それは、彼なりの抗議らしい。 「(凛・・。)」 私も彼の気持ちに答える様にその手を握り返した。 ◆ ◆ ◆ 「・・着いたね。」 「あぁ。」 海中にいる時、口を閉ざしていた凛がやっと喋ってくれた。 「ありがとね。」 凛の顔を見ずに呟いた。 ここで彼を見たら、また海に引き戻されてしまうような気がした。 「おう。」 「じゃあ「」 別れを告げようとする私を凛が遮る。 そして、両頬に手を添えられたかと思うとグイっと顔を上げさせられた。 「ッ」 真っ直ぐな凛の瞳から目を逸らそうとするが、まるで金縛りにあったかのように逸らせない。 「気を付けてな。」 「う、ん。」 「よし。」 私の返事を聞くと凛はいつもの様な笑顔を見せてくれた。 そして、私に背を向けた。 「凛ッ!!」 だんだん小さくなっていく凛の背中を見て叫ばずにはいられなかった。 凛が金髪を靡かせて振り返る。 「本当にありがとっ!!それとっ、・・ごめんね。」 だんだん尻すぼみになっていった声。 凛に届いただろうか。 俯いてると、ふいに凛が叫んだ。 「ふらーーッ!」 そう言いながら、ズンズンとこちらに向かってくる。 そして、目の前で止まったかと思うといきなりデコピンされてしまった。 「いっ!?」 痛がる私をなど気にも留めずに凛は続ける。 「せっかく、わんがカッコよく別れようとしたのに、やーが謝ったら意味ないやっし!」 彼らしい考え方に思わず、噴き出してしまった。 するとまたデコピンを喰らわされた。 「ふんっ、やーなんてさっさと行って振られて来いっ!」 今度はプイっと顔を背けられてしまった。 「うん、ありがとね。」 そう言うと、彼はボソリとがんばれよ、と言ってくれた。 「うん!じゃあねッ!」 「おう!」 そう言って今度こそ2人は背を向け合う。 凛は海へ、私は陸へとそれぞれ歩みだした。 ◆ ◆ ◆ それからどれくらいの時が経っただろうか。 いつの間にか月が空の頂点にいた。 見慣れない場所、慣れない歩くと言う動作に悪戦苦闘しつつも、 私は唯一の彼の手掛かりである城を目指していた。 幸いにも城は浜辺から近い距離にあったので、目的地には夜明け前までには着く事が出来た。 「(着いたけど・・・どうしよう。)」 城門を目の前に私は途方に暮れている。 城に着くと言う目的だけで動いていたので、この後の事など微塵も考えていなかった。 情報収集しようにも、深夜と言う事もあって辺りに人の気配は感じられない。 「(とりあえず、今わかってる事を整理しよう。)」 そう思って、大きな城門の壁に寄り掛かりながら座った。 「(永四郎はこの国の王子で、この城に住んでる。それで・・・・・えっと、うん、それだけだね。)」 改めて自分が彼の事を知らない事を実感した。 「(もっと色々聞いておけばよかったかな。・・・それにしても、眠い。)」 後悔と眠気によって一気に脳内が支配された。 「(ちょっと、休もう・・。)」 そして、そのまま私は深い眠りに堕ちた。